専門学校に勤めて最初に担任を持ったクラスにH和という女子生徒がいた。
オーラのある子で、最初に見た時に「あぁクラスの中心になりそうな子だなぁ」と感じたことを覚えている。
実際にクラスが始まってからも、男女分け隔てなく明るく接し、夜も学校が閉まるまで自習していくような生徒で「お手本」と言ってもよかったように思う。
しかしながら学校が始まって二か月ほどして、だんだんとH和の表情は曇っていくのが如実に見てとれた。
H和が最後まで自習していくと同じ電車に乗ることになるため帰りの様子を見かけることが多々あったが、友達と帰ることも少なくなっているようだった。
そこである日、空き教室に呼び話を聞いてみると
自分の勉強のできなさが辛い
とのこと。
「周りの友達はみんな頭が良いけど自分は馬鹿だからみんなよりも頑張らないといけないのに、やってもやっても全然できるようにならない…」
生徒の「やってもやっても」というのは基本的に信用しないが(本当に「やってる」子の学習量を知らない場合が多い)、この時の彼女の学習量は目で見て知っていたのでそれは苦しいだろうなと思わざるを得なかった。
私のクラスは9月に毎週行われる公務員試験の突破を目指すコースで必然的に短期集中型の勉強になり、カリキュラムとして朝から夜まで学校にいることになる。
彼女はその一日のカリキュラムが終わって尚、最後まで自習をしていたのだ。
そして彼女の苦しみの根幹は次の言葉に集約されていた。
「本当は『自分は馬鹿だから』『自分は馬鹿だから』って思わなきゃいけないのが辛い…」
自信のないこと、苦手なことにチャレンジしていれば周りが自分よりも優れているように思えるのはよくある。
その時に自分を卑下してしまうようだと彼女のような苦しみを味わうことになる。
だが、H和は勉強の手を休めることはなかった。
「自分は馬鹿だから」だから、やっても無駄。
この言葉はこのように逃げの一手で使われることが多いが、H和はそれでも手を止めないのだ。
だから私も、H和の姿勢がどれだけレアですごいことかを伝えた上で
「そのまま、泣きながら勉強したらいいよ」
と伝えた。
勉強というのはすぐには結果が出ない、しかし結果を出すためには続けなければならない。
逆に言えば続けていれば、いつかは結果につながる。
ましてやH和ほどの学習量であればなおさら。
それまでの塾勤めの経験で私はそれを知っていたので大丈夫大丈夫、不安でも泣いていてもそのまま続けていれば大丈夫と言い続けた。
そして9月、彼女は受けた試験で全勝。
きっと。
あの時の経験は彼女の中で大きなものになったんじゃないだろうか。
そして、
ふと今日H和の話を書きたくなったのは、この塾を開いたのはH和のような生徒に出会うためだと思い至ったから。
今ひとつ自分に自信が持てない子も、努力を続けることで心に灯りを点すことができたら人生が少し変わる。
そのお手伝いをするための塾です。